商売で「まける」のは、日本語では売り手の側。でも中国語では客の側らしい。



中国語に「不可不敗」という言葉があるそうだ。「負けざるを得ない」?? いや、そんな妙な意味でないことは、使われ方を見るとすぐわかる。「不可不败」を検索すると、こんな見出しが並ぶ。

最新款不可不败的时尚衣衣 (不可不敗な最新ファッション)
不可不敗!光澤感夏妝絕對必備 (不可不敗よ!キラキラメイクは夏の必需品)
不可不買的東東 ~ 超便宜 (不可不敗なアイテム---超安い!)
(baidu.comより。以下同じ)

とこのように、広告上の常套句となっているからだ。どう考えても「買わなきゃ!」という意味だろう。しかもファッションとか、流行の新製品とかによく用いられる、かなり砕けた、勢いのある、びっくりマーク付の言い方のようだ。

実は「不可不敗」という熟語だけではなく、「敗」一つで「買う」という単語として機能しているらしい。試しに「一定要败」で検索してみたが、

超级卡哇伊包包一定要败到手!(超かわいいバッグ、絶対買う!)
一定要败的,很便宜的(絶対買わなきゃ、安いんだから)
这回一定要败一台ibook回来了! (今度こそibookを買ってくるぞ!)
※中国語末尾の( )内は筆者がてきとーに日本語にしたものであり、標準的な訳語とは限りません。〜以下同じ

と、あんまり変わらないニュアンスの見出しが並ぶ。中には「負ける」というおなじみの意味で使われているが、あまり多くはない。ざっと見た所では、下の1項目くらいだった。

百度的官司一定要败 (百度の裁判はきっと負ける)

ただし、キーワードを「败了」にまで短くすると、どうやら「負け」の意味の方が優勢になってくる。

小岛秀夫很失望:日本游戏已经败了(小島秀夫 悲観「日本のゲーム(業界?)はもう負けている」)
哥伦比亚又败了(コロンビア、再び敗れる)
彻底败了(大負けした)

この他、「败了」とか「败了败了」「我要败了」など、どっちの意味にもとれる文も多い。結局のところ、「負ける」vs「買う」のどっちが優勢なのかわからないが、少なくとも、「败」一文字で即「買う」の意味になるほどには定着していない印象を受けた。メディアやメーカー主導で広まった流行語と言ったところだろうか。

しかし、なんで「敗」が「買う」の意味になるんだろう? 中日辞典を見る限りでは、

【败】壊れる、壊す、だめになる/失敗する/敗北する、負ける/打ち負かす、打ち破る/腐る、腐敗する/しぼむ、凋落する/病根を取り除く(講談社 中日辞典 Canon G90版)

気がめいるような意味ばっかり並び、買うという意味につながる手がかりは今イチ見つからない。...とここで、中国人の友人に「敗が買うの意味になってる単語って何かある?」と聞いた所、教えてくれたのが「敗家」という言葉だ。

【败家】 家財を蕩尽する、家を没落させる/身代をつぶす(同上)

なるほど。家の行く末に影響するほどに金を使う、と言う意味から、「思い切って散財」→「買う」という意味になってきた、という解釈も、できなくはない。

しかし、「败家」の「败」はもともと、「金を払う」とか「物を手に入れる」というよりは、「(家を)ダメにする」意味の方にウエイトがある印象がある。その感覚で言えば、「買う」という意味にたどり着くにはちょっと...遠いんじゃなかろうか? それに、関連の言葉が「败家」以外に見当たらないのも気にかかる。

そんな時に結構頼りになるのがtwitter.comである(最近よく止まっているが)。

原來「敗」一詞也有「買」的意思[不可不敗]。不知這是比較新出的含義嗎?
(敗には「買う」の意味もあったんですね。新しく出てきた意味なんですか?---のつもり)

とつぶやいてみたら、ぱらぱらっと反応が来た。。

是從"敗家"與Buy的諧音衍生的,應該是這幾年才開始有人這樣用的
("败家"と"buy"の音から派生した言い方です。多分ここ数年の言い方でしょう)

这是有了很久历史的说法。“败”在读音上同“buy”,同时有“败家”之意。
(けっこう古い言い方ですよ。"败"は"buy"と発音が一緒で、"败家"の意味もあります)

おお、原来如此! 

フタを開ければなんとわかりやすい答えだろう。「buy」という英語は、さっさと連想できなきゃいけなかった。これまでにも「酷=cool」とか「拷贝=copy」いう例があるし。そう言えば、败や酷は第四声なので、アクセント上もほとんど違和感がなさそうだ。

...でも拷贝はkao3bei4だな。他の例をパッと思いつかないが、あながちアクセント重視というわけでもないようだ。

そう言えば、いやな意味の漢字ばっかり使ってあるのは、たまたまだろうか。败は「負ける」だし、酷は「ひどい」だし、拷に至っては「叩く、拷問する」だし。ちょっと他の例を思いつかないのでいろいろ言えないが、こうした音訳語が生まれる際には、何か一定の感性みたいなものが働いているんだろうか?

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by uedadaj | 2008-10-28 17:56 |


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