「漂泊」の言葉に引かれて読んでみた。1930年代に書かれたそうだが、古さを感じない。
艾芜(艾蕪、1904-1992)は、1930年代から社会主義中国成立期にかけて活躍した作家だそうだ。成都の学校を中退し、1925年から31年にかけて中国南部や東南アジアを歩く放浪の旅に出た。その間の手記を中心にまとめたのがこの本だ。 この時期、中国国内の情勢は平穏とは言い難いが、そんな本国の動きとは一線を画して、貧しいながらも自由な旅を続ける若者の心情や行動が、さらりとした筆致(だと思う)で綴られる。実は作者は旅の後期、マレーシア共産党で政治活動にも関与するらしいが、その辺の事情には特に触れられない。一人の青年の気ままな旅行記として読むことができた。 古都マンダレーで中国人ぽい人に話しかけたら現地語で「ワカラナイ」と冷たくあしらわれたり、田舎の街で金が尽きてバイト探しに奔走したり、海路シンガポールに向かう途中で三等客のため衛生検査を受けさせられたり。それからミャンマー人と中国人の気質の違いや、北部の少数民族の風俗などにもいくらか触れられており、何だか「地球の歩き方」のコラムを思わせる。旅をする人の心情や関心は、昔から似たようなものかもしれない。 この旅ではミャンマーに身を置いた期間が長かったようだ。作者はこの国に少なからぬ思い入れを持ったらしく、その後起こったイギリスの統治に対する農民蜂起の顛末にも及んだりする。この国を意識することはこれまでほとんどなかったが、これを読んだら何やら興味が湧いた。ちょうど時を同じくして、NHKのBSでミャンマーに暮らす子供たちについての短いルポを見る。こういう「縁」は、意外と多いものだ。今年はちょっとこの国を気にしてみようかとも思う。 マレーシアの記述もある。10年ほど前に旅行したことがあるので面白く読んだ。特にペナン島(槟榔屿)のくだりはちょっとワクワクした。---インド人がいることを除けば中国の海沿いの街のようだ、というあたり、わかるわかる。ペナンの船着き場から屋根付の船に乗って対岸の鉄道駅に渡る描写も、「同じじゃん」と親近感が湧く。10年前の旅の思い出と、半世紀以上前の旅の記録が、本を通して重なる不思議な感慨。 《中国现代小品经典 漂泊杂记》河北教育出版社1995年刊 【艾蕪について】
by uedadaj
| 2007-01-12 16:11
| 極楽
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