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夏バテ

2年ほど前の中文ウェブログの書き込みに、これからの季節にぴったりなネタがあったのでメモしておく。



その時の文章のテーマとは無関係なのだが(^_^;)、台湾人の網友から「夏バテ」という日本語は中国語の何に当たるんですか、というような質問をいただいた。その時、中国人の丹梅さんが「“苦夏”だと思います」と答えてくれた。僕の手元の辞書を引いたら同じように載っていたので、この件は解決したと思っていた。だがその後、数人の台湾網友(たびたび書き込んでくれるTessを含む)から意外な反応があった。

「我從來沒聽過“苦夏”一詞」
(“苦夏”という言葉は聞いたことがないんだけど)

これをきっかけに、台湾で「夏バテ」の状態はどう言うんだ?の議論がしばらく続くこととなった。

とりあえずTessが台湾政府「教育部」による「國語辞典」のサイトで調べてくれたのが次の2つ。
■害夏:怕熱。因夏天天氣炎熱而感覺精神不振、胃口不佳。
■苦夏:人於夏日,不勝溽熱,而至食慾衰退,身體消瘦。

どちらも、「夏バテ」の示す意味に近いようではある。こちらも図書館へ行って調べてみた。

愛知大学中日大辞典編纂処編「中日大辞典」(大修館書店)
■害夏:  (掲載なし)
■苦夏:=[(方)注夏][(方)疰夏][(方)蛀夏]夏まけ(する)。夏やせ(する)。
■注夏:→[苦夏]
■疰夏:夏まけ(する)。
■蛀夏:夏やせ(する)。

大東文化大学中国語大辞典編纂室編「中国語大辞典」(角川書店)
(これが今一番でかい中日辞典なんでしょうか)
■害夏:夏やせの病気。=苦夏。
■苦夏:夏負けする。夏負け。(方)疰夏
■疰夏:夏季熱をいう。

その間にも何人かの人から、「中暑(=日射病)」だろう、いや「酷暑」のことじゃないかなどという書き込みがあった。どうやら本当に、「夏バテ」という現象がピンときていないようだ。

ネット上の状況も見てみた。台湾YAHOOなどで「苦夏」を検索してみたが、新华网とか人民网など中国大陸のサイトの繁体字版がたくさんリストアップされ、台湾のサイトは非常に少ない。(ちなみに「害夏」は大陸、台湾を問わず、ほとんど見当たらなかった。死語?)つまり、台湾では「夏バテ」という概念が、少なくとも一般的には、ないと考えて良さそうだ。

でも日本より台湾の方が暑いはずなのに、夏バテの症状を感じないのだろうか?

Tessによれば、夏が暑くて食欲が減ったり痩せたりするのは当たり前、という感覚だという。さらに、日本で中国語の先生をやっている台湾人Fish老師が解説してくれた。曰く、「害夏」「苦夏」は中国北方の語彙と思われ、中国南方および台湾においては、ことさらに「夏バテ」の状態を表現する言葉を必要としなかったのではないか。それでもあえて台湾でそういう感覚を表す時は「快被熱昏了」「快中暑了」などの言い方をするかなあ、とのことだった。

なるほど、わからんこともない。専用の言葉ができた途端に、ある現象が顕在化するということはあり得るようだ。一説によれば、「肩がこる」というのは夏目漱石が初めて使った言葉で、その時から日本人の肩こりの歴史が始まったとか(笑)。それに「いじめ」「引きこもり」という現象も、これらの言葉が足がかりとなって激化していったのではないかという話も聞いたことがある。
…おっと、脱線し過ぎか。

最近話題の地球温暖化のせいなのかどうか、最近夏になるごとに、日本各地で最高気温を更新しているようだ。同様に、台湾でも夏がどんどん暑くなっているとすれば、これまで意識もしなかった「夏バテ」を感じる人が出てきて、「苦夏」が大陸から輸入されたりするんだろうか。
by uedadaj | 2006-07-04 18:29 |


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