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【2535】冷氣挑客

(台湾《2535雜誌》2010年8月号掲載--掲載文は繁体中文)




<テーマ:熱さしのぎ>
冷房で客仕分け?


夏になると、男女間で冷房を巡るちょっとした争いが起こる。

たとえばオフィスである。男性社員の場合、真夏もネクタイを締めてジャケットを羽織り、しかも打ち合わせや顧客訪問などで頻繁に外を歩く人が多いため、帰社したらまずオフィスの冷房を最大にして、熱中症になりそうな体を冷やそうとする。一方女性は、体質上身体が冷えやすく、しかも男性に比べて比較的薄着であり、冷房を不快に感じやすいという。

最近はエコ意識の浸透によって、全体的に冷房温度を高めに設定するようになってきたようだが、冷房を巡る男女の対立関係が変わるわけではない。どちらの意向が通るかは、各オフィスの状況次第。もしかすると「夏の冷房が温めのオフィスは女性の勢力が強い」なんていう法則があるかも知れない。残念ながら確かめようがないが。

では、一般人に開放された商店や施設はどうなんだろう。むかし、夏の街を歩いていて暑さに耐え難くなった時の手軽な緊急避難所はデパートと銀行だった。入り口をくぐると、キンキンの冷気がのぼせ返った体を一瞬で冷却し、ものの数分で逆に肌寒さを感じるほどだった。そうした冷房が「サービスの一つ」と思われていた時期もあっただろう。しかし今では、サービスどころか迷惑になりかねない。

最近のデパートと銀行は、この点どうなっているんだろう。都心に出向いた時、ついでに試してみた。折しも梅雨時、太陽は顔を見せないが街全体が蒸されているような不快な天気の日である。

デパートは有楽町の丸井、阪急、そしてこの12月に閉店する西武。主観で言えば、どの店も大差なかった。除湿機能が聞いているらしく、湿気の不快さはすぐに消えたが、温度は思った以上に高い。建物に入った時に汗がスッと引く、あの感覚がないのだ。

続いて、同地区にある銀行を試してみた。肌寒いような冷房ではないにしろ、明らかにデパートに比べて温度が低いと感じる。デパートは女性客メインなのに対し、ここは背広を着た中年男性が多く訪れるので、やはり男性側の希望を生かしているんじゃないか。

まあ、今のところ何の証拠もないが、そのうちこの「冷房による男女仕分け」は徐々に定着していくんじゃないかという気もする。というのも、男女を区別する空間のサービスがだんだん普及しつつあるからだ。

有名なのが電車の「女性専用車両」だ。00年代初頭から、痴漢被害などを心配する女性たちのために、多くの電車が朝の通勤ラッシュ時に限って設けはじめた。その他にも、居酒屋やフィットネスクラブ、ネットカフェの「女性専用ブース」や女性限定の旅行プランもあるらしい。「男女七歲不同席」という古語があるが、最近男性との「同席」をいやがる女性が増えているのか、「女性専用」「女性限定」の文字がやたら目につく気がする。

こうした「女性限定」「女性専用」が支持されて、書店やコンビニ、喫茶店、映画館などに波及していったらどうなるか。正面切って男性を拒む、とはいかないまでも、微妙に冷房の温度を調整して「男性が居心地よくない空間」をつくるくらいはやるかも知れない。

だったら男だって、女性が不快なくらい冷房を効かせた「男性専用」の空間が欲しくなるわけだが、今どきそんな反エコな場所、あるのか?

それが、あったのだ。秋葉原電気街の片隅にある「アマチュア無線」機器の専門店。一歩脚を踏み入れるとそこは数十年前の少年たちを夢中にさせた通信機器の天下。最近類を見ないほどにバッチリ冷やされた空気までが、中年世代の郷愁を誘うような空間だった。

(中文版は こちら )


※いやー、とんでもなく季節外れなタイミングになってしまったが、この文章は今年の酷暑の前に書いたもの。夏の真っ盛りになったら、客の性別で冷房温度調整するとか、そんなのんきなこと言ってられなかったかも知れないですね。確かめてませんが。
by uedadaj | 2010-12-31 19:20 | 散歩


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