whyさんが「中国語通訳の手帖」で書いておられる
「日本語で"中国人"と言う場合、 "中国の人"と言うのと比べて 多少蔑むニュアンスがあるのでは?」 という議論について、 面白そうなので、自分の経験から少々考えてみた。 以下、whyさんのウェブログに書くつもりだったコメント。 普通、日本人が「○○人」という言葉を、単に出身地を示す意味だけで使うことは少ないと思います。「○○人」と口にする時、頭の中には大抵「○○人はこうだ」というイメージが(実際に口に出すかどうかはともかく)あるはずです。中国語の「○○人」が単純に出身地を指す以上の意味がないのであれば、日本語の「○○人」との間に微妙な意味のズレがあると考えたほうがいいでしょう。 たとえば名古屋出身の友人の、いかにも名古屋らしい言動を「これだから名古屋人は…」と冗談めかしてからかう。名古屋に限らず、そんな経験を持つ人は多いでしょう。つまり日本語の「○○人」は、[他との差異]を前提として、気質や習慣などの文化的な特色を想起させる言葉なのではないか。これが、私の考えです。「関西人」があって「関東人」がないのは、関東に住む人についての固定イメージが弱いせいで、「沖縄人」という言葉を聞かないのは、より文化性を強調できる「ウチナンチュ」が普及したので、使う機会がないのだと思います。 少し広げて「社会人」という言葉を考えるといいかな。単に「社会の人」と解釈すると意味を成しません。この言い方には、主に学生と区別する意図があり、「一般社会の一員として求められる責任や振る舞い」などの意味合いが含まれているはずです。他にも「業界人」という例などがありますね。ある業種の人にしか理解できない、せまーい文化を感じさせます(笑)。むしろ「人(じん)」という言葉自体には、もともとイメージの良し悪しや格の上下はなく、「○○」という場所や集団がどんなイメージを喚起するか、によって印象が決まるのではないでしょうか。例えば「大阪人」「東京人」という雑誌は、ご当地の文化性への誇りに根ざした雑誌であるはずです。 …実は私も、中国の方を前に「中国人」と言うのは少々抵抗があるんですが、それは私が昔、まだ中国や朝鮮の人々が日本の社会では良いイメージで語られることの少なかった時期に、保守的な田舎で少年期を過ごしたことが関係していると思います。アメリカ人、ドイツ人、フランス人という言葉ではそんな負の気持ちは起こりませんから。ただ、「他と区別する」という気持ちは、自分に向けると誇りにつながり、他人に向けると差別意識が生まれやすい。だから「まったくフランス人は…」という言い方でフランス人を罵ることも可能です。 ちなみに自分のことを「日本の人」と言わないのは、単に日本語では元々自分を「人(ひと)」という習慣がないせいではないかと思います。そう言えば一時期「私って××な人だから」という言い方も話題になりましたが、あれは自分を他人事のように言うニュアンスが面白かった(または批判された)のでしょう。 ともあれ、「中国人」という言い方にひっかかりを覚える日本人が多いのも現状のようです。その感覚を敏感に読みとっている中国の方も多いようですね。早くそんな屈託がなくなり、どこの人でも「○○人」と呼び合えるようになるといいと思います。ぼやぼやしてるとどこかの変な偉い人が「○○人、という言い方は好ましくない印象を与えるので使わないのがノゾマシイ」などと言い出しかねませんし。^_^;
by uedadaj
| 2006-03-02 18:59
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