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裏 と 裡

「裡」という字、素直に「うら」と読めますか?



このブログにいくつか【2535】とつけた文章を載せているが、現在僕は台湾の《2535》という日本の「R25」に似た雑誌に文章を書いている。内容は、東京を歩いて見つけた、誰も気にしたことのないような微妙な(笑)街ネタである。この間は、原宿の裏手にここ数年勃興している「裏原宿」という地区について一編書いた。といっても、あの街で展開しているおしゃれな店がどうのこうの、という話では全然ない。まあ内容はそのうちここにも載せるつもりなので今は置いといて、その原稿を台湾の担当者とやりとりする際にちょっと面白かったことを、メモしておく。

原稿を送ったら、こういうメールが来たのだ。

「台湾では"裏"という字は"裡"と書くんで、
 "原宿"に直してもいい?」


えっ...。

確かに、「裡」というのは「裏」の異体字で、もともと同じ意味を表す字だ。形もよくみると同じ要素でできていることがわかる。
●裡=「衣へん」に「里」
●裏=「衣」という字が上下に分かれて「里」を挟み込んだ形
ともあれ、現地で「裡」を採用しているならその表記に従うべきだし、僕が「それだと一瞬"たぬきはらじゅく"に見えるんすけど」と思っても、台湾の人々には関係ない。

だが、同じ字という知識はあるものの、日本語の中での使われ方を見ていると、涙/泪とか讐/讎のようなまったく互換可能の関係とは少々違う要素が、裏/裡の間にはある。

たとえば「成功裡」「暗々裡」など「〜のうちに」という意味では,「裏」よりも「裡」が用いられる場合が多いようだ。これは僕一人の印象というわけではなく、かつて国語審議会で議論され、その理由から「裡」が「裏」とは別の字として常用漢字表に残った、ということもあったらしい。(その記録)
(※追記:でも2009年4月7日のNHKニュース中、北朝鮮のロケット打ち上げのトピックで「成功裏」という表記が使われていた)

Yahoo!辞書(大辞林)によると、その「裡」を「うち」と読ませて「好評の裡に終わる」「平和の裡に終わる」という語法もあるようだ。「裏」をそう読ませる例を、僕は知らない。「好評の裏に終わる」とか書かれると、「好評の裏に何か隠されているのか?」と思ってしまうかも知れない。

それから、法律用語に「心裡留保」という言葉があるそうだ。辞書を調べると「売る意思がないのに売ると言ったりするように、自分の内心の意思と異なることを自覚しながらする意思表示」(スーパー大辞林)とあった。この言葉でも「心裏留保」という書き方はしないようだ。グーグルで検索すると「もしかして...心裡留保?」とやんわり諌められた(笑)。(心裡留保の解説)

というような、細かい知識の積み重ねがあって、僕の頭は「裏」と「裡」を単純に同じ字とは解釈できない。「裡=うら」という読み方を知ってはいるが、「裡原宿」と書かれて素直に「うらはらじゅく」とは読めないので、このメールを前に僕は思わず考え込んだ。

だがここで僕が悩んでも仕方がないので「いや別に、そちらの標準の書き方に直しちゃっていいですよ」と返事を書き、送信。....しようとしてやっぱり「でも...どこかに"日本語では裏原宿と書く"と注釈入れといて」と付け加えた。XD

そういえば、簡体字中国語では「裏」も「裡」も「里」という字になっちゃうんだよなあ。つまり、「里原宿」?

「たぬきはらじゅく」に「さとはらじゅく」...うーむ。どちらもなんだか田舎っぽいし。
by uedadaj | 2009-04-06 19:18 |


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