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乔蕾《东瀛手记》

先日の「日中博友会」の集まりでリアル友にもなった網友つぼみさんの著書である。



「东瀛」とは東方の海のこと。中国からみた「日本」を指す。日本に住んで二十年余り、日本人のご主人と中学生の息子さんと暮らすつぼみさんは、かなりの記録魔であるらしい。現在のブログを始めたのは2006年だが、実はその十年ばかり前から、身辺のさまざまなことを写真付で書き溜めてこられたようだ。そこから60余りの文章を選んで一冊にしたのがこの本である。

サブタイトルにある「在日華人女性真情記録」と書名の「手記」という言葉から、しっとりもの静かな内容かと思っていた。中国語で「真情」というと「真心」の他に「実情」という意味もあるそうだから、「真情记录」は「実録」というほどの意味なのだろう。だが中国語の知識がいまいちアイマイな僕は「心の記録」というように受け取り、心のうちを綴った内的なエッセイなのかな、と思ったりしたわけだ。

ところが読み進めてみると、印象はだいぶ違った。思い浮かんだのは、作者から正面の遠くの方へ、真っすぐな矢印がぐうんと伸びているようなイメージ。留学生として来日以来、熱血と根性で勉学や仕事や家族や生活を愛し続ける、バイタリティあふれる女性の「行動記録」だと思った。

特に山あり谷ありの大事件が起こるわけではない。たとえば、商社勤務の駆け出し時代に、返品された商品を道端で売りさばいたり、フリーマーケットで数百円で手に入れた物を数年後に10倍の値段で売ったり、正月休みの最終日にいきなり北京へ秘密で帰省して親御さんをうれし泣きさせたり、小学校に上がる直前の息子さんを故郷に連れて行って「短期留学」させたり。しかしそういった小さな達成の数々が、何だかワクワクとするような文体で語られ、「おー、やりましたねえ」と言いたくなってしまうのである。 どの文章にも、前向きのベクトルが突き出ているのだ。

また作者は仕事柄、日本の各地をまわることが多く、ある町の畜産農家の働きぶりや、実直な工場長の人柄など、僕らがなかなか接する機会のない日本の一コマが、親しみを込めて描写されている。

各文章の末尾には執筆当時の日付が残っていて、その頃の時代背景やご本人の年代を考え合わせつつ読むことができる。割と初期の文章には、日本社会のいろんなことへの不思議や戸惑いも見受けられるが、ここ数年になってくるともはや、日本の一般のワーキング主婦に近い視線になっていたりする。それでいて、中国にお住まいのご家族やご親戚とも疎遠にはならず、ことあるごとに日中間を行き来し、ネットに父上を巻き込んだりして、バーチャルにも盛んに行き来をしている様子。時おり、北京の街角で出会った人や物事も活写される。こんな風に「どっちのお客さんでもない立場」から、二つの国を書ける立場の人というのは、まだ多くないんじゃないかと思う。

実は、ずっと通勤電車の中で読み進めたため、わからない言葉は結構読み飛ばした。だから充分に理解してない個所もあるが^_^; それでもご本人の熱血と、周囲に対する温かな眼差しは充分感じることができた。その印象は、先日の博友会で実際にお会いして、よりしっかりと確認できた。...こう書くと何だか豪快な打ち出しの人みたいだが(笑)、実際は非常に物柔らかな方でした。これからもよろしくお願いします。

《在日华人女性真情记录 东瀛手记》中国民主法制出版社 2008年刊
内山書店のネットショップで扱っているようです)
by uedadaj | 2009-02-25 12:27 | 極楽


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