潘基文

この人の名前を聞くようになったのは、確か去年の夏頃だったろうか。



今年から国際連合の事務総長を務める潘基文(반기문)氏。この名前が日本では少なくとも二通り以上の読み方があるらしい、と気づいたのは、おそらく昨年10月の事務総長選予備投票で、潘氏が他のアジア諸国の候補を抑えて就任確実となり、テレビやラジオで頻繁に名前が報道されていた頃だったと思う。

広く通用している読み方は「パン・ギムン」だろう。NHKのニュースをはじめ、朝日、読売、毎日の三大紙がこの表記だ。ところが東京のFMラジオ局J-WAVEのニュースでは「ン・ムン」と読んでいた。最初は言い間違いかと思い、次回のニュースからちょっと気をつけてみたが、何度聴いてもJ-WAVEは自信たっぷりに「バ」「キ」と言っている。何で?

ふと思い当たり、CNNやBBCのニュースサイトへ。案の定「Ban Ki-moon」と表記されている。どうやら、J-WAVEの読み方は英語表記に倣ったものらしい。ちなみに日本経済新聞、産経新聞、それから東奥日報あたりがこちらの「Ba-Ki派」であるようだ。

ちょっと調べてみたところ、韓国語ではパ(p)行とバ(b)行、カ(k)行とガ(g)行を明確には区別していないようで、「ㄱ(p/b)」「ㅂ(k/g)」という同じ字母で書き表される。ただこれらの子音が単語の頭に来る場合は清音に近くなり、単語の途中だと濁音に近くなる。そういう規則…というか現象(笑)があるので、語頭に位置する潘は「バン」ではなく「パン」と発音され、語の真ん中にある基は「キ」ではなく「ギ」となる…ということらしい。

一方、ローマ字表記。韓国が2000年に定めた「文化観光部2000年式」という表記法によると、語の最初や母音の前ではbやg、語末や子音の前ではpやkを使う、と決められているそうだ。たとえば釜山(부산/プサン)はこの方法だと「Busan」となり、金浦(김포/キポ)は「Gimpo」。だから場合によっては、日本人の清音/濁音の感覚と反対の表記になる。この辺が日本語の表記にも影響しているということか。ちなみに日本版Wikipedia では、
「パン・ギムン,又はン・ムン」となっている。
おいおい、「Pa-Gi派」「Ba-Ki派」だけじゃなく「Ba-Gi派」まであるのか?

…だがそういえば、普通に日本語を使っている時にも、表記の揺れに悩まされることが少なくない。そもそも国名である「日本」からして、「にっぽん」「にほん」と二通りの読み方があるし、漢字の送り仮名なんかも結構バラバラだ。商業印刷物の文を書いていると、たとえば「おもうしこみ」などという言葉の表記は結構めんどくさい。よく見かけるものだけでも
「お申し込み」「お申込み」「お申込」
の3種類。それで企業によって書き方が違ったりするものだから、入稿前の版下校正の時点でうっかり見落として色校で修正することになり、「こんなくだらないことに…!」とホゾを噛んだこともある。(色校は既に製版を経ているので、ここで修正すると印刷会社に修正料金を払うことになるのです。)

愚痴を含んで脱線が長くなったが、要するに日本の場合は自国語の書き方からして不安定なんだから、外国語の表記でこのくらいの揺れは仕方ないんだろうな、と納得…しかけたのだが。

でもちょっと待て。近ごろ話題の金正日(김정일)氏は、同じCNNなどでは「Kim Jong-il」と表記してある。文化観光部式に従うと「Gim Jeong-il」になるようなのだが。さらに、「Ban Ki-moon」の「moon」は、文化観光部式では「mun」にしかならない。

どうやら欧米のメディアもしっかりした規範に沿っているわけではなく、ノリでやっている部分があるようだ。そりゃま英米人なら、「mun」より「moon」の方が「むん」と発音しやすかろう。

要するに韓国自身のアピール不足ということかも知れない。中国の北京は従来、英語では「Peking」と表記/発音されていたが、1980年代に「Beijing」が公式であるとされた。ラジオの海外放送や英字新聞などで一斉に変更されたような覚えがあるので、これは中国政府の強いアピールがあったのだろう。(でも日本語では未だに「ペキン」だな。試しに「べいじん」と打って変換してみたら「米人」と出た笑)
そう言えば、アメリカの大統領だったRonald Reagan氏も、最初は「リーガン」と読んでいたが、後に「レーガン」に統一された。その背景にはアメリカ大使館による異例の要請があったそうだ。

だが、「moon」と書いて「むん」と読めるのは、英語圏の人だけだよな、たぶん。他の国の表記はどうなっているんだろう? …というわけで、もう一度Wikipediaにご登場願おう。日本版の「潘基文」のページを開いて、左側にずらりと並んでいるいろんな言語へのリンクに、カーソルを当ててみてほしい。ブラウザのいちばん下に表示されるリンクアドレスの中に、見出し語が表示されるはずだ。

やってみると、何と大多数が英語表記に追随。独自の表記をしているのは、チェコ語やクロアチア語、ハンガリー語など、かつて東側諸国と呼ばれた国の言葉に多い。ロシア語は「Пан Ги Мун」で、日本語と同じく「パン・ギムン」と読める表記をしてある。思わぬ所で仲間を見つけた気分だ。(ちなみにアラビア語やヘブライ語、インド系言語などは読めないので不明。)

ついでに、英語と同じ表記をしているページをいくつか見てみた。見出し語は「Ban Ki-moon」としておきながら、その後ろに「発音 pɑn gi mun」などとフォローしているページが多くて、ちょっとトホホな感じがしなくもない(笑)。

<参考にしたページ>
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1111920841
http://question.excite.co.jp/qa3043214.html
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Ocean/6540/man/romajja.html
http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/choes/cgi-bin/enc/korenc.cgi?%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E8%AA%9E%E3%81%AE%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E5%AD%97%E8%A1%A8%E8%A8%98%E6%B3%95
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by uedadaj | 2007-10-05 21:15 | | Comments(2)
Commented by 小學生 at 2007-10-07 23:21 x
糟糕,我每次看到這位先生名字的英文拼音
總以為是廣東話(粵語)發音的說…
Commented by uedadaj at 2007-10-12 19:48
據在下面網站查的結果來說,
潘基文的粵語發音好像是「pun gei man」這樣的...
http://homepage2.nifty.com/Gat_Tin/fangyin.htm


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