昇り龍

いかにも中国っぽいワードだが、今回の舞台は中国ではなく、中東。



中東と言えば、最初に思い浮かぶのはイラクやレバノンなどの不穏な地域だが、一方でUAEやカタールなどのアラビア湾岸地域の発展ぶりといったらすごいらしい。

実は10年ばかり前、この地域が全然盛り上がっていない頃、ドバイにでも行ってみようかと思い立った。立ったはいいが、基礎知識がまったくないので、とりあえずネットで見てみようとYahoo!Japanに(当時Googleなんてなかったなあ)「ドバイ」と打ち込んでみた。ずらっと出現した検索結果に現地情報はほとんどなく、その代わり、いろんなことに関する「アドバイス」のページがたくさん出てきた。

そんなことも遠い昔となり、最近のあの辺はとにかくすごいらしい。テレビでよく目にするのが、海辺を木の枝のような形に埋め立てて創ったドバイのリゾート村の様子。それから、先日のNHKの朝のニュース「おはよう日本」でもこんな風に言っていた。

「特にカタールは、ドーハのアジア大会開催がきっかけで
 観光ブームに火が着き、湾岸の昇り龍と言われています」


…ええと。
ここで、この言い方が気にならない人もけっこういるのかもしれないが、僕は気になったニュースを聞くどころではなくなった。だって、龍だよ。アラビアの湾岸で。

いったい誰がそんなことを言い始めたんだろう。とりあえず、日本でそんな言い方が流通しているかどうか確かめようとグーグルで検索してみたが…結果は0件。「湾岸の昇り龍」「湾岸の昇り竜」「湾岸の登り龍」「湾岸の登り竜」考えうる表記をいろいろ入れてみたが、少なくとも日本語のサイトにそんな言葉が登場した形跡はない。

すると、もしかして「龍の本場」中国のレトリックか?というわけでbaidu.comに行き、多哈(ドーハ)と龙(龍)で検索してみると…わはは。「ドーハで中国の龍(つまり中国選手)が大活躍」という類のニュース記事のオンパレード。そりゃそうだ。自分たちを「龍の末裔」と名乗っている中国の人々が、いくら経済発展仲間だからといって、遠いし文化的なつながりもない土地をわざわざ「昇り龍」と形容するとは考えにくい。ドバイは「中東の香港」と呼ばれているらしいが…関係ないか。考えてみれば、日本のマスコミが中東地域についてわざわざ中国語のレトリックを借りて形容するとは思えない。

すると、中国や日本の龍ではなく、西洋方面の「dragon」の類か?ドラゴンというと、日本や中国の龍とはかなり違い、恐竜に羽が生えたようなイメージが一般的のようだ。漢字で書く場合も「龍」より「竜」の方が似つかわしいイメージがある。だがあいつら、空は飛んでも、「天に昇る」という感じではない。架空の生き物とはいえ、やはり大地に根ざした連中だろう。アルクの英辞郎を見ても、英語に「昇り竜」という言葉はない。

ウィキペディアによると、日本語で「竜」と表現される生き物(?)はドラゴンの他にいくつかあるようだ。ギリシャ神話に出て来る「ヒュドラ」、ヨーロッパの紋章から生まれたらしい「ワイバーン」など。図版を見るとワイバーンはドラゴンの亜種みたいで、ヒュドラは頭が9つ生えた巨大なヘビ。うう気色悪い。所詮はドラゴンと似たり寄ったりで、天には昇るまい。

あるいは、当の中東地域でそういう言い方をしている可能性もないとは言えない。試しに「アラビア 竜」でグーグル検索してみると、何だか星座関係のサイトがたくさん出てきた。アラビアは古来天文学が発達したので、星の呼び名にはアラビア語起源のものが少なくないという。いくつかのページを見てみると「竜座」という星座があり、その中の「トゥバン」「ラスタバン」と呼ばれる星が、それぞれアラビア語で「竜」「竜の頭」の意味だというではないか。やった!アラビア文化の中にも竜はいたのだ。

だがアラビアの竜とはどんなものなんだろう。そして何より、その竜は「昇る」のか?キーワードを「アラビアの竜」に変えて再び検索すると、なぜか旧約聖書に行き着いた。「エズラ記」という章の中に、こんなくだりがあるらしい。

見よ、恐るべき幻が東から現れる。アラビアの竜の民が多くの戦車に乗って襲ってくる。

ええい、これじゃわからん。アラビアの竜のは飛ぶのか飛ばないのか、天に昇るのか昇らないのか。だがネット検索ではここまでが限界。これ以上なんにも出てこない。あまりに手がかりがないので弱り果て、思いあまって当のNHKにメールした。----「湾岸の昇り龍」という言葉の出所を教えていただけませんか。

意外に早く返事が来た。以下三行引用。

 「湾岸の昇り龍」という表現を、最初に誰が言い出したのかは、
 定かではありませんが、現地のジャーナリストや商社マンの
 間では、さかんに使われている表現だということです。

…がっくり。つまり、最近現地に行った一部の日本人が言ってるだけの話なのか。なんだよう。すっかり想像を膨らまして旧約聖書にまで首を突っ込んだ俺の気持ちをどうしてくれる。XD
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by uedadaj | 2007-05-11 21:12 | | Comments(6)
Commented by 小學生 at 2007-05-12 07:01 x
我正好準備了這本書要給您
→ http://www.owls.tw/post/1/461

唉,問題是,今年大概沒辦法去日本~ #_#
Commented by uedadaj at 2007-05-14 11:12
おー。
感謝你再三的厚意,我也要報答一下。
你有想要得手的日文書的話,先告訴我啊,

日本正在有股「漢字熱」,
既然出了這樣的書,或許是台灣也有嗎?

啊,那本書按你的方便送给我就好,甚麼時候也沒關係。^_^
Commented by 小學生 at 2007-05-14 19:49 x
我以為這本"漢字的故事"會有日文版
可是在日本的amazon沒有找到

中文版最早是簡體字版本
台灣這裡的正體/繁體字版本是去年出版的
這個網頁是"內容試閱"→ http://www.cite.com.tw/product_info.php?products_id=10861&text=5#c1
Commented by uedadaj at 2007-05-17 16:14
這位作者是瑞典人,
好像也有從西方世界觀點的記述,讓我有期待。
Commented by baijinghy0527 at 2007-05-19 10:11
小白でございます。
お疲れ様でございます、、
私も気になってグーグルにて「湾岸の昇り龍」で検索してみたらTOPに「語句楽散歩」がヒットしました(猛爆!)

ちなみにグーグルの「イメージ検索」にて「昇り竜」で検索したら素敵な紋々が出てきて汗。

私的には漫画ニッポン昔話のオープニングテーマPV(笑)を思い出します、ハイ。

NHKにまでメールした執念、敬服!
Commented by uedadaj at 2007-05-20 17:18
だはは。>検索トップ

まんが日本昔話のオープニングは、たぶんありゃ龍の子太郎ですな。
アラビアの竜、気になるす。

ちなみにNHKのメールは、ほんの数時間で返事が来ました。
なんかの時、けっこう使えるかもしれんです。


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