もういや

外国や外国語と付き合う際に、悪いとは思いつつ、名前のおかしさに笑ってしまうことがある。



大学の同級生女の子がイギリスに短期留学した時の話で、イタリア人の「シモネッタ」さんと友だちになり、「あなた、日本には来ない方がいいかも」とアドバイスしたとか言っていた。そう言えば、翻訳家の故・米原万里さんの著書にも「ガセネッタ&シモネッタ」というのがありましたね。読んでないけど。

逆の例もある。井上という後輩に聞いた話だが、英語ネイティブの人々の耳には「井上」という苗字が「in a way(ある点では)」と聞こえるらしい。彼の兄上がアメリカに行った時、何かっちゅうと「in a way, in a way」とおちょくられて困った、と語っていたそうだ。いまいちナニがおかしいのかピンと来ないが、アメリカ人にとっては、態度をはっきりさせない印象のある日本人の名前として、「in a way」という言葉がぴったり来たんだろうか。

そう言えば昔、宝島社が出していた「VOW」という本があったが、その中に似たようなネタがいくつかあった。ソ連の政治家に「バカチン」という人がいたとか、フィンランドのスポーツ選手に「アホネン」がいたなどと、いろいろほじくり返して面白がっていた。地名でも、バヌアツの「エロマンガ島」やオランダの「スケベニンゲン」という街などが有名だ(現地発音では「スヘフェニンヘン」に近いらしい。それはそれで^_^;;ですね)。

さてと。本題はNHKテレビ、9月24日夜のニュース。

毎度かまびすしい飲酒運転事故や政治系のニュースをひとしきり流した後、各地のイベント関連のニュースへ。日中の太極拳愛好家たちが北京の人民大会堂で交流会を行った、というような報道(詳細)を、テレビ見るともなしに何となく流し聞きしていたら、聞き捨てならぬフレーズが耳に入ってきた。


中国芸術文化普及促進会の孟偉哉会長がスピーチを行い…


ちょっと待て。会長の名前、ナニさんだって?

もう  い や
孟 偉 哉 会長。


いやー。
字ヅラはすごくカッコいいのになあ。この人も、日本に関連する活動に関わっていなければ、こんな所で見知らぬ日本人にケチつけられることもなかったろうに…などと思いつつ、この因果な中国人名を中国語で発音してみて、ハタと気づいた。

「孟偉哉」を「もういや」と読むのって、間違いじゃん?
僕の知る限り、中国人の名前はすべて音読みで読むはずで、それだと「もういさい」となるのではないか。

日本語の漢字の読みは、音訓の別をおおまかに推測できることが多い。たとえば、末尾が「撥音(ん)」や「拗音(ゃ、ゅ、ょ)」なら音読みが多いとか、サ変以外の動詞や形容詞ならまあ訓読みでしょう、など。日本人の頭には、そうした基準が習慣を通してインストールされており、漢字を読む時に何となく音訓が判別できている。

だが、中には判別しにくい読み方もある。たとえば、「笏」という字。「しゃく」という読み方があるが、僕は今辞書を調べてみて、これが訓読みだと初めて知った(音読みは「コツ」だそうだ)。も少しなじみのある例を挙げると「咳(せき)」がある。これが訓読みだと確認して、一瞬「えっ、そうだっけ」と思った僕はウカツだろうか?そりゃ「咳き込む」という動詞はあるし、「労咳(ろうがい)」という音読み言葉を思い出せば、「せき」が訓読みらしいとわかるが、普段の暮らしの中ではそこまで意識していなかった。

そうした微妙な位置付けの中に、「哉」も含まれるんじゃないかと思う。日本の場合、この字は男性の名前の一部になっている例が多い。知り合いに「和哉」「哲哉」と言った男性がいる人も多いだろう。他に、男性名の「○○や」に使われる漢字には「也」「矢」「弥」などがある。「也」は音読み。「矢」は明らかに訓読み。「弥」は訓読みだそうだが、聞かれたら自信をもって答えられなかったろう。ちなみに手元の漢和辞典(旺文社漢和中辞典初版)で、「や」と読む漢字の音読み:訓読みの数を見てみたら、16:18だった。ううむ、微妙なところだ。

もちろん、「快哉を叫ぶ」「夫婦善哉」などの例を思い出せば、この字の音読みが「サイ」または「ザイ」らしい、と思い当たるが、この字にはその他に「かな」(詠嘆を表す終助詞)という押しも押されぬ訓読みがある。前述の「夫婦善哉」は映画のタイトルだが、僕は最初「めおとぜんざい」ではなく「ふうふよきかな」と読んでいた。XD

だから「哉」の音読みをついつい「や」と思ってしまった気持ちも、わからなくはない。

とは言え、誤読伝説をウリにしている(?)民放のアナウンサーならともかく、こんな番組をつくって「正しい日本語」を啓蒙しているNHKのアナウンサーが堂々とそんな間違いをするのも、どうなんでしょうか。堂々と、と言ったのは、そのニュースと翌日朝のBSニュースで、2回ともそう読んでいたからだ。その間に、局内で間違いを指摘した人はいなかったことになる。

ちなみに、孟偉哉という名前は中国の著名な作家にもいるらしい。その人と今回の孟氏が同じ人なのかどうかはわからなかった。ともあれ、今後日本のニュースでこの孟偉哉氏が取り上げられることも、そうそうないだろう。このニュースを見た人々の中では、彼の名前は「もういや」さんに決定してしまった。あーあ。
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by uedadaj | 2006-09-27 17:29 | | Comments(7)
Commented by 花うさぎ at 2006-09-28 00:14 x
おもしろいですね。
日本人で、中国関係の仕事をしないほうがよい名前といえば、「麻子」とか、「犬養」とかでしょうか。後、「玉田」(タマダ)さんとかも。

Commented by Jasmine at 2006-09-28 11:04 x
もういや・・・笑っちゃいました:)
>僕が知っている限り、中国人の名前はすべて音読みで読むはずで...
そうですよね、何故か。
思い出しました。昔日本語学校に中国人と韓国人の「金さん」が居て、そしたら、アメリカ人の生徒さんが2人の苗字が同じ漢字なのに、「キン」と「キム」と読み分けることについて、しつこく質問されたことがあり、先生がすごく困ったと覚えてます。
Commented by 花うさぎ at 2006-09-28 11:16 x
しつこくまた登場です。

うちの息子も小学生の時に学校の先生に「Hongkongは、ホンコンと読むのに、どうしてKINGKONGは、キンコンじゃなくて、キングコングなのか」と尋ねて困らせていたらしいです。私はこの質問は適当にはぐらかしましたが。
学校の先生って、生徒がなにを聞くかわからなくて、本当にたいへんですね。
Commented by uedadaj at 2006-09-29 16:58
花うさぎさん、
おお、語学関係者ならではの豆知識、ありがとうございます。
でも「麻子さん」や「犬養さん」はわかるとして、
「玉田」さんは何が不都合なんでしょう?
                      あ、発音したらわかったXD

HongkongとKingkongもねえ。
英語だと変わんない発音なんでしょうけど。^_^;;
あ、ついでにPingpongもだ(笑)
Commented by uedadaj at 2006-09-29 17:05
Jasmineさん、いらっしゃい。
ははは。そのうえ日本人と中国人の「林さん」でもいたら大変でしたね。
香港と中国でも読み方違ったりするし。
Commented by baijinghy0527 at 2006-10-09 18:37
小白でございます。
出遅れましたが(^^;

ワタシ苗字、Bai jing なのでけど、これが、早口だと「バイキン」に聞こるようで、短期留学時代、日本人の仲間からは「黴菌くん」ってよばれちゃいってました(今も・・・)。

先代のオリンピック委員の会長に「サマランチ会長」っていたじゃん。
ワタシには「さぁ!マラ、チンチ、掻いちゃおう!」に聞こえたりして。

ハイ、このコメント、ごそっと削除しちゃってください(爆)>papaさま
Commented by uedadaj at 2006-10-10 16:20
もほほ。消しません(爆)
俺がもし留学してたら「成仏さん」と言われてたかもXD


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