plunger

10年以上住んでいる家で、初めてトイレが詰まった。

幸い、前にいた会社で同じことがあったため、それに対処する器具(でかい吸盤に棒がついたアレ)のことはすぐに思い当たった。さらに近くにホームセンターがあるので、急遽購入。会社では総務の人が開通作業をやったが、家では自分がやるしかない。やってみると、結構なコツがいることや開通時の爽快感、ちょっとした教訓など、得るものはいろいろあった。だが、ここでそんなことを書きたいわけではない。

書いておきたいのは、例の「器具」の名前のことだ。




ホームセンターに走ったものの、その名を知らないことに気がついた。店員になんと聞けばいいのか?としばらく考え、結局「トイレの詰まりをなくすアレ、どこですか?」と間抜けな聞き方に。幸い、すぐに分かってくれたので良かった(まあ分かるわな)。見つけた商品のパッケージを見て、名前を確認した。

「トイレのつまりとり」と書いてある。

いや…そういうのじゃなく、ほかに一言で言えるのがあるだろ。と思ったら、その横に英語で「TOILET plunger」書いてあった。plunge(突っ込む、投げ込む、沈める)+er(動詞を名詞化する接尾語)つまり「突っ込み器」ということだ。

驚いたことに(当方が不勉強なだけですか)、この「plunger」はこのメーカーの商品名ではなく、当該の器具を示す唯一無二の・正式な・普通名詞として、英語世界では定着しているらしい。辞書にも当たり前に載っており、ググってみたらそのものズバリの画像がページの頭に表示される。ウィキペディアにも収録されていた。いやあ、世の中、知らないことはまだまだ多い。

そのウィキペディアだが、ページの左側に見出し語の各国語のリンクが載っているのが何かと重宝だ。おかげで日本語の呼び名も知ることができた。

「ラバーカップ」だそうだ。

知ったはいいが、釈然としないものがある。

確かに、ラバー製のカップを主要パーツとした物品ではある。だが「ラバー」であることと、「カップ」であることがこの器具の本質だろうか。あのホームセンターで「ラバーカップください」と言ったとして、店員がハイハイと分かってくれる気がしない。もう少し、使い方や効果効能などに迫る言葉を拾えなかったものだろうか。あるいはいっそ何かのメタファーにするとか。

どうも、日本の命名者が器具の本質に向き合うことを忌避したような匂いがある。用途が用途だけに。

それにしても、英語と日本語でこれほど切り取り方が違うのは面白い。他の言葉ではどう言い表すのか?と気になるのが人情というものだ。改めて、ウィキペディアの「ラバーカップ」のページ左側の各国語リンクを見てみる。

一番上に「Čeština」とある。これは確か「チェコ語」のページへのリンクだ。リンクへ飛ぶと、見出し語は「Zvon (nástroj)」となっている。(nástroj)は「道具」という意味で、つまり見出し語のジャンル分けだろうからいいとして。

「Zvon」…「ズヴォン」と読むんだろうか。これはひょっとして、使用時の「音」を表したものではあるまいか?興味深い。さすがにチェコ語の辞書は持ってないので、「Zvon」をグーグル翻訳してみると。

「鐘」だそうだ。

思わぬ結果にしばらく手が止まった後、念のためにチェコ語のウィキペディアで(nástroj)なしの「Zvon」を引いてみた。

間違いなく「鐘」の解説だった。併載の画像は、モスクワのクレムリン宮殿に展示してあるという、18世紀に製作された巨大な鐘の写真だ。重量約160~200トン、高さ6.14メートル。多くの見学客が周りに群れをなしている。

チェコ人は、こんな大層なものと同じ名前でアレを呼んでいるのか。同じ形状描写のネーミングとは言え、「ラバーカップ」のセンスとは雲泥の差ではないか。もっとがんばろうよ日本。

悔しいことに、こちらの知識が限られているので、各言語くまなく調べることはできない。わかりそうな範囲ということで、学生時代に習ったフランス語を調べてみた。

フランス語では「Ventouse」伝統医療で使うガラスの「吸い玉」と同じ名前であることが判明。なるほどと思わなくもない。原理は同じだ。だが、フランス人たちはそれでいいのだろうか。どこかの古い小さな医院に、2種類の「Ventouse」が互いに無関係に置いてある様子を想像してみる。治療中の医者に「Ventouse」と命じられ、ハイハイとトイレに取りに行く看護婦さんは、まさかいまいが。

じゃあスペイン語は?見ると「Desatascador」と出た。

細かい調査経緯は省くが、「障害を取り除くもの」という感じの意味らしい。おいおい、意外と創造性がないじゃないか。どうしたスペイン。ピカソとダリの国。何だかがっかりだ。

気を取り直し、仕事で少し関わっているフィンランド語はどうだろうと見てみたら、「Karhupumppu」=「ヒグマポンプ」だそうだ。いったい何がヒグマなのか。フィンランド人はヒグマに何を期待しているのか。

さて、言語リストの一番下に中国語がある。知っておいて損はないと調べてみると、「皮搋子(píchuāizi)」と出た。

「皮」は「ゴム」の意味があるのでわかる。「搋」という字は初めて見た。辞書を見たら「1 こねる、ねる、もむ 2(当該の器具を用いて)排水管のつまりをとる」だそうだ。つまり英語と同じような発想。なんだかんだでこの二つの言葉は、時々近いところがある。

ついでに「搋」で画像検索をしてみると、やはりラバーカップの画像のオンパレードとなった。ということは、実際のところほぼ、「トイレのつまりをとる」という意味専用の動詞となっているんだろうか?…と思いながら検索結果をスクロールしていたら、

「搋麵」という単語が見つかった。意味は「和麵時用力揉搓(小麦粉を力強く揉んでこねる)」だそうだ。

うーむ。中国語では、あの動作とこの動作に同じ漢字を使うのか。なんだか微妙だ。

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by uedadaj | 2014-05-08 23:20 |


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