繁體字 と 简体字(2):骨 と 骨

前回触れたBBC中文網の投稿記事に、興味深いエピソードがあったので紹介しておこう。



この投稿の主は台湾人。たぶんグラフィックデザインなどを生業とする人だろう。彼はネットで中国の書体デザイン会社のサイトを見つけ、そこに出ていたある繁体字のフォント(書体の文字セット)を気に入り、親会社である台湾の会社を通して購入。だが試しに使ううち、フォントの妙なデザインミスに気がついた。

「骨」の字である。

中国語を習っている人はご存知と思うが、中国の簡体字では、「骨」の頭の部分の中身、「┌ 」の向きが反対になっているのだ。えーとつまり、こう。

(日本語、繁体字)
  ┌─┐     
  │┌┤     
 ┌┴┴┴┐   
 │┌─┐│  
  ├─┤  
  ├─┤  
  │ │   

 (簡体字)
  ┌─┐     
  ├┐│  
 ┌┴┴┴┐   
 │┌─┐│  
  ├─┤   
  ├─┤   
  │ │     ※微妙なズレはご容赦ください。

形の上では全然簡単にならないのに、こんな細かい変更をした理由は、画数を減らすためだそうだ。漢字の筆画のルールに従うと、「┌ 」は「─」+「│」の2画。一方「 ┐」は1画で書ける。形が一緒でも、画数が1つ少なければ、まあ確かに簡単にしたと言えなくもないですわな。どれほどの実益があるのかはわからないが。

さらに調べてみると「過」の字(簡体字では「过」)も、同じ「┌ 」の部分が逆向きの「┐ 」になっていた。つまり、このフォントは繁体字であるにも関わらず、簡体字の字形が混じっていたというわけだ。 そこでこの人は、フォントをつくった会社にメールしてこの件を指摘、対応を求めた。それに対し、会社は嫌みたっぷりの返事を返してきた。

(大意)
“このフォントを発売して数年になりますが、今回の件をご指摘になったのはお客様が初めてです。おめでとうございます。ですが当フォントはISOの認定を取得しており、お客様のご要望は、国際規格を曲げることになりますが?云々”

話にならないので、やむなく台湾の親会社にこのフォントを送り返した。すると台湾の会社の社長自らこの人を訪ね、代金を返しに来たという。曰く、「このフォントがずっと台湾で売れない理由がやっとわかりました。すぐに改善させていただきます」

なんだか、「規格」というもののあり方とか、企業の意識とか、消費者の立場とか、いろんなことを考えさせられるエピソードだ。それはともかく、台湾で売れなかった、ということは、中国大陸では売れているんだろう。すでに何かの印刷物に使われているのかもしれないわけだ。たとえば、中国製の製品の台湾、香港向けカタログとか。機会があったら「骨」や「過」の字を確かめてみたいものだ。


ところで、さっきわざわざ罫線記号を使って字を書いたのにはワケがある。実はこの2種類の「骨」の字は、PC上だと区別して表示できないのだ。試しに簡体字に切り換えて入力してみる。

骨。骨。骨。骨骨骨骨骨。

ほら。どうしても逆向きにならない。今度は中国のサイトで「骨」を含む文を拾ってペーストしてみる。

治疗种类 骨折 骨折延迟愈合 骨不连 骨缺损 骨坏死 骨关节炎
(出典:http://www.guguanjiezaisheng.com/ それにしても、「骨関節再生.com」とはすごいURL ^_^;;)

他の簡体字はそのままだが、「骨」だけはきちんと日本語の形に変換の上表示される。exblogは、ユニコードによって多言語対応しているようだが、そのユニコードでは、どちらの「骨」も同じ字として扱っているらしい。(そんなわけで、標題の「骨」と「骨」はまったく同じです。すみませんXD)

似たような字は全部一緒くたにしてあるんじゃ?というと、そうでもない。たとえば「別」という字は、繁体と簡体の微妙な違いがきちんと表示される。ほら。

别 別

「别」と「別」の違いが、2つの「骨」の違いよりも大きいとは、少なくとも僕には思えない。

こんな例は他にも少なからずあるのだろう。繁体字と簡体字の問題は、コンピューターの世界でもいろいろややこしいことになっているようだ。将来、両者が統一はされないにしても、共存を図っていく場面は多くなるかと思うが、こうした細かい未整理が、いろんな所でちょっとしたおかしな事件や、笑えない問題を起こしていくのかもしれない。
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by uedadaj | 2006-04-18 22:38 | | Comments(7)
Commented by applesheep at 2006-04-20 23:45
繁体字と簡体字と、微妙な違いのある漢字がたくさんありますね。小りんごはいつも勝手に書いてます。汗。
前の繁体字は廃止されると言う記事を読んで、ちょっとビックリしました。漢字の統一することを賛成しますが、どちらと言うと、繁体字のほうが好きです。ただの文字ではなくて、中華民族の何千年の文化も含まれてると思います。筆画が多くて、書きにくいかもしれませんが、やはり形がきれいですね。もちろん13億の人に使われてる簡体字を廃止するのは無理だけど、繁体字も残して欲しいです!
Commented by applesheep at 2006-04-20 23:45
ちなみに、ブログをリンクさせてもらいますね!
Commented by uedadaj at 2006-04-21 19:45
小りんごさん、ありがとー!
結局そのニュースは、「国連はずっと昔から簡体字だけしか使ってないし」という突っ込みで収束し、出所とかはいまいちわかんないようですね。
この辺の文を書いて思い出したんだけど、実は私ゃ学生の頃、旧字体(=繁体字)を普通に使っていた頃があって、卒論も旧字体で書いた^_^;; ちなみにそのテーマは書体に関することで、その頃はワープロを持ってなかったので、「書体」と書きゃ済むところを、わざわざ面倒な思いして「書體」と手書きしてましたXD
Commented by 小りんご at 2006-04-22 10:52 x
先日の面接の時、ホワイトボートも使いました。「栄養」の栄を簡体字の「营」に書いちゃったことをいまさら気づきました・・・(--;
Commented by baijinghy0527 at 2006-04-22 20:44
中国語の簡体字て、ホント、合理的にでできてるよなぁ。
って思うのがこの「骨」の字っす。

画数すくなくてすむもんね♪
Commented by uedadaj at 2006-04-23 23:24
小りんごさん、
ああ、そういう違い、ありますね。実は日本でも昔は「営養」と書いていたようなんですが、今ではめっきり「栄養」が主流です。縁起かついで書き換えたのかな?その辺、面白いいきさつがあるのかもしれません。
適度に息抜きつつ、就活がんばってね。
Commented by uedadaj at 2006-04-23 23:26
白氏、
ああ、やはりそういう意見もあるのか。それならわざわざ反対向きにした意義もあるのかもしれんですな。


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