曾幾何時

台湾で本を出した時の話を蒸し返す。



《日本創意文案》を出版する時には、自分の中国語ブログから文章を拾い集めて推敲、修正し、さらに現地の編集さんに送って文を直してもらう、という作業を3カ月ばかりかかって延々やった。最終的にレイアウト原稿のPDFを確認する時には、もう中国語を見るだけでウンザリした。

でも、自分が書いた中国語の文章を、ネイティブのプロに読んで直してもらうという経験はなかなか貴重だった。辞書やネットでは見つけられなかった表現も結構仕入れることができた。すかさずメモって整理してきっちり学べば良かったが、そういうゆとりがなくて、身につけた表現は一部しかない。そんなわけで僕の本には、僕の知らない中国語が結構混じっている(笑)。

その中の一つに、「曾幾何時」というのがある。

文中で「いつの頃からか」と書きたい部分がいくつかあって、自分では「不知從什麼時候開始」などと書いていたが、編集さんの修正原稿ではすべて「曾幾何時」に修正されていた。たとえばこんな風に。

曾幾何時,「哭」這件事成了許多娛樂產品最重要的關鍵字。
(いつの頃からか、「泣く」というのが娯楽商品の重要なキーワードになった)

曾幾何時,這些活動的招生對象,從老年人、家庭主婦,到現在已經擴大到一般的年輕上班族。
(いつの頃からか、こうした活動の募集対象が、お年寄りや主婦から、一般の若いサラリーマンにまで広がってきた)

僕は、この言い方を知らなかった。「幾何」が「どのくらい」だから...なるほどね、そういう言い方もあるのか。勉強になるなあ、などと思いつつ辞書で調べたら、全然違う説明が載っている。

[成]いくらもたたないうちに、ほどなく。

上記の意味の場合、ある時点のことを書いて、その時から「ほどなく〜〜」という流れになるべきだ。しかし僕の上記の文の場合、以前の時点のことは述べてないので、いきなり「ほどなく〜〜」で話を始める形になり、ヘンなことになる。

編集さんに修正してもらおうと思ったが、わざわざ書き直してある所に先方の「確信」が窺える気もする。で、ネットで調べてみたら、結構あるのだ。「いつの頃からか」の意味で「曾幾何時」を使っている例が。たとえばこれである。

所謂的「賣藝雜耍」一直便只有「賣」的本質,而從來不被認同有「藝術」的成份,但是曾幾何時經過長時間的改變,〜〜
(いわゆる「寄席雑技」は芸を売ることだけを目的とし、「芸術」的なの要素があるとは認められなかったが、いつの頃からか長い時間を経て変化し〜〜)
日華翻訳雑誌内のサイトより

へえ、最近はそういう意味になっているのね、と僕は理解し、直さないままにした。

で、本が出て2年後。ロサンジェルスで日本人が発行している『J-Goods』とい中国語のフリーマガジンにコラムを書いた時、僕は「いつの頃からか」→「曾幾何時」を使ってみた。

ところが、これを日本在住の台湾人翻訳者に校正してもらったところ、「曾幾何時」が「不知從什麼時候開始」に直されていたのだ。

ここで、一旦片付いたはずの疑問が2年ぶりに頭をもたげた。一体どういうことか。校正してくれた翻訳者に聞いてみることにした。今度は日本語が通じるから話が早くて楽だ(笑)。

結論から言えば、「曾幾何時」は最近誤用が拡大しつつある典型的な例であるらしい。以前取り上げた「屈託のないご意見」みたいなものだ。

翻訳者さんは、二つのサイトを示して説明してくれた。

中國華文教育網--海外在住の華僑向け中国語教育ウェブサイトらしい。
これは元々の意味と最近誤用が多いことを簡単にまとめた

これは学校の先生をやっている人らしい、個人のブログ。モロに「あなたは正しく使ってますか?」という注意喚起の記事だ。なるほどねえ。

どちらも大陸方面のサイトで、例によって台湾だとまた違った事情があったりするのかも知れないが、少なくとも「いつの頃からか」→「曾幾何時」は、多くの人に「ヘン」と思われる可能性が高いと思っといた方が良さそうだ。

誤用ととられる表現が活字になってしまったのは悔しいが、これがきっかけで「曾幾何時」はもう忘れることはないだろう。

余談だが、今回のエントリーを書くにあたってはGmailとGoogleDocsがすごく役立った。本が出る時、最終原稿をPDFからテキストを拾ってそのままDocsに入れといたんだが、今回「曾幾何時」で検索したら、問題の個所を1発で見つけることができた。それに先方とのメールのやりとりもキーワード検索できる。グーグル恐るべし。
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by uedadaj | 2011-01-10 18:41 |


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