約翰 と 若望

ニュースを見て思い出した。早いもので、この人物が亡くなってもう1年経つ。



この人物とは、「約翰・保羅」または「若望・保祿」二世。
日本語で言うとヨハネ・パウロ二世。ついでに英語ではJohn Paul Ⅱ。

僕は昔、ビートルズにハマっていた(今も結構好きですが*^_^*)。だからかどうか、先のローマ法王ヨハネ・パウロ二世が即位して間もなく、彼の名前が英語圏では単なる「ジョン・ポール」になってしまうと知った時、少なからぬ親近感を持った覚えがある。そして中国語を勉強し始めてから、ジョンを約翰(簡体字では约翰)と書き、ポールを保羅(保罗)と書くことは結構早くから知っていた。その時は、「ジョン→ヨハネ≒Yuehan」&「ポール→パウロ≒Baoluo」の図式でバッチリ覚えた(笑)。

の だ が。

去年の四月、台湾の網友が東京へ遊びに来た。その時にくれたお土産が台灣の蘋果日報。ちょうど前法王が亡くなった翌日の新聞で、そのニュースが一面トップ。だがそこには「若望 保祿二世」と書いてある。

若望(Ruowang)? 前に覚えた約翰(Yuehan)とは字も発音も全然違うので一瞬混乱する。昔、世界史の教科書に、中国名「湯若望」とか言うヨーロッパ人が出てきたが…関係ないな*

でもこれは、「R」の字ヅラに惑わされなければ納得できる。どうも中国語の「R」は、「ラ」行というよりは英語の「J」に近い感覚で発音されるようだ。そう言えば、上述の台湾の網友も名前に「如」の字が入っていたが、ローマ字表記では「ju」と書いていたっけ。「日本(Riben)」も、地方によっては「ずーぺん」のように発音することがあるようだ。

つまりこの表記は、ラテン語の「ヨハネ」ではなく、英語の「ジョン」に由来するのではないかと、とりあえず考えてみた。「Juowang」と発音するなら、「ジュオワン」「ジョアン」「ジョン」…早口で言えば何とかJohnに近く聞こえるではないか^_^;;。

ここで例によってネット検索。Google Newsの国際欄を見てみた。台湾版香港版(内容はほとんど同じ)によると、台湾の中廣新聞網や香港の大公報、文匯報など、結構たくさんのニュースサイトが、彼の没後一周年についてとりあげているようだ。「若望・保祿」表記が圧倒的に多い。一方、「約翰・保羅」表記の方は、見出しには見当たらなかった。

一方、中国版を見てみると、…このニュース自体見つからない。はは。そこでちょっと努力し、中国国内のニュースサイトへ(なぜかどのサイトも重いのでおっくうなんですけど)。中国青年報でいくつか見つかった記事では「约翰·保罗」表記。中央電視台のサイトでは「若望·保禄」もいくつかあったが、やはり「约翰·保罗」が主流。その他、イギリスのBBCやアメリカのVOAなどの中文版では「约翰·保罗」。これらは中国の表記に合わせてあると思われる。

20世紀後半の歴史において、台湾や香港はほとんど英米の文化の許に発展してきた。一方中国本土は、むしろロシアや東欧を通して、ラテン語とかその他のヨーロッパの言語に比較的なじみがあった、ということに由来する現象だろうか。ちなみにロシア語だと「Иоанн Павел II(ムリヤリローマ字を当てると「Ioann Pawel」くらいか?)」と書くそうな。

日本人の発想だと、Johnなんだから単純に「jiong」と読む一文字を当てればいいぢゃねえか、と考えたくもなるが…だがそうすると、坰とか炅とか熲とか、難しい字ばっかり。余計読めないXD。それに、中国語の「J」と英語の「J」はやはり別モノなんでしょうね、きっと。

などと調べるうち、イタリアの中国語ニュースサイトが見つかった。AsiaNewsと銘打ってあるが、カトリックのサイトらしい。ここでは「若望·保禄」になっている。ちなみにイタリア語だと、Giovanni Paolo IIになるが…そうか、これだと相当発音が近い。なるほど、バチカンではイタリア語を使っているそうだから、「若望·保禄」は現地で呼ばれている音にかなり忠実な表記ともいえるようだ**

そう言えばブッシュやクリントンなど、両岸間で表記が統一されていない例は他にもあるが、「ジョン/ヨハネ」のように、違う言語の読み方に由来する表記のずれはどのくらいあるんだろうか。興味深いところではある。

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※付記:
*ちょっと調べたら関係大ありだった。湯若望の原名は「アダム・シャール」と習ったが、フルネームは [Johann Adam Schall von Bell]というそうだ。ちゃんとJohannが入っている。
**Jessew07さんのご指摘によると、若望と保禄は数百年前からの公式表記だということです。湯若望の件も含めて、ご指摘ありがとうございました。

ローマ法王は、中国では「罗马教皇」、台湾では「羅馬教宗」と書くのが普通のようです。
ちなみに日本式の「法王」は、彼らの感覚だと「何だか陰陽師の世界みたいな感じ(笑)」と、ある台湾の網友が言っていました。
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by uedadaj | 2006-04-04 17:26 | | Comments(8)
Commented by la at 2006-04-05 23:06 x
なるほど!勉強になりました。笑
リンクさせていただくねー
Commented by uedadaj at 2006-04-08 01:00
ほいー。
こちらはもうリンクしとるでねー。
よろしくねー。
Commented by Jessew07 at 2006-05-15 04:30 x
はじめまして。王という台湾人です。
若望·保禄というのは、中国天主教の公式翻訳です。
(CatholicとProtestantの聖書訳ははっきり違います。何百年前から、Johnは若望·Paulは保禄で変わりません。)
中国のメディアが約翰・保羅に訳したのは、宗教が政府に禁じられ、普通の人たちが宗教事務をほとんど知りませんからです。
Commented by Jessew07 at 2006-05-15 04:45 x
追伸
湯若望という人は、やっぱりJohannesですよね(ドイツ語のJohn)。
そしてこの人は明末清初、つまり三百何年前の人でした。
Commented by uedadaj at 2006-05-15 15:56
Jessew07さん、こんにちは。
ご説明ありがとうございました。
つまり「若望·保禄」が正統というわけですね。

湯若望のことも、ご指摘を受けて初めて(あ、そうなの?)と思った次第で、
事前の調べが足りませんでした。反省反省。
今後ともよろしくお願いいたします。^_^
Commented by Jessew07 at 2006-05-16 00:47 x
いえいえ、このブログを発見してからいろいろ勉強になりました。
uedadajさんは本当にすばらしいです。

キリスト新教の一番流行っている中国語訳聖書は、20世紀初発行された"和合本"版です。そのなかにJohn and Paulはちゃんと"約翰と保羅"という形で登場しています。新教と旧教の正統はべつべつですよね。

こちらこそ宜しくお願いいたします。
Commented by Jessew07 at 2006-05-16 01:01 x
中国人にとって、法王というのは、モンゴル文字を作った大宝法王八思巴とか、金庸小説に登場した金輪法王とか、主にチベット系の仏教高僧たちです。
Commented by uedadaj at 2006-05-19 19:12
Jessew07さん、
>約翰と保羅
なるほど。今やどちらがより正しいかという話でもなくなっているわけですね。ありがとうございます。
>法王
それだと確かに、時代がかったアヤシイ感じ(笑)がするかもしれませんね^__^


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