今さら「オタク」という単語の話。実は、ここにも日本語と中国語との微妙な関係が見える。



「オタク」の語源は結構有名だろう。アニメなど特定の趣味傾向を持つ男子が、「コミケ」をはじめとする趣味の集まりなどにおいて、初対面の同好の士などに呼びかける二人称に「おたく」を多用したところから名付けられた、というものだ。僕もこの言葉が出始めの頃に同じ説明を聞いたので、たぶん正しいと思う。

その背景には「おたく(御宅=あなたの家、家庭)」が二人称として成立するという日本語の特性がある(相手を直接指さないという意味で「あなた:彼方」と由来が似ている)。実際、僕が子供の頃はそんな特別な意味はなく、ちょっと背伸びした青少年が使いたがるような代名詞だった覚えがある。

「おたく」がいわゆる「オタク」を示す言葉として定着した後は、当然ながら「あなたの家」という元の語意から完全に離れた。今は、二人称としてこの言葉を使う人さえなかなかいないだろう。

そして、日本のサブカルチャーが国を越えて波及するにつれ、「オタク」も海外にも知られる言葉となった。大概の国では「otaku(+現地語の解釈付)」で済むわけだが、同じく漢字を使う華人文化圏では、ちょっとした曲折が生まれているらしい。

最初は「御宅族」というそのまんま訳が流通していたが、そのうち「宅」を略語として「宅男」「宅女」「宅物」「宅經濟」などの言葉が生まれてきた。そこでは、「宅」が「ウチの中」と解釈される傾向も出ている。

台湾の例を引くと、本来の「オタク」を指すほかに、「主に自宅で過ごす人」の意味がある。その結果、外出を好まない、人付き合いが苦手、家の中でゲームなどをやって日がな過ごす...などなど、日本語の「オタク」の人々にイメージが重なる部分もあるが、どちらかと言えば「引きこもり」「出不精」に近い意味合いを感じる。場合によっては「自宅を仕事場とする人(SOHOワーカー)」も指すフシもある。

日本で「おたく」と言う場合、「うちのなか」という意味を意識することはまずない。最も連想されるイメージは「熱中度の高さ」ではないだろうか。趣味に打ち込む結果として、身なりに構わなかったり、異性との交際経験が少なかったり、家にいる時間が長くなるケースはある。しかし自分の趣味を極めるために結構遠くまでグッズや機器を買いに出かけるし、イベントやオフ会などに行って同好の士と交流し、レベルを競い合ったりする「アクティブなおたく」も多いはずだ。

ついでに言えば、日本で「おたく」が言葉として定着した後、いろんなジャンルに広がって行った。だから「ギターおたく」や「サッカーおたく」、「釣りおたく」に「料理おたく」も普通に使われる。でも、例えば中国語で「釣魚宅男」は形容矛盾になるんじゃないだろうか。

このように、「宅」と「おたく」は行動様式が重なる部分はあるが、実際にはかなり違った人種を指しているようだ。

たとえば「宅女」である。台湾で言われる「宅女」の多くは、おそらく「オタク女子」のイメージからかなり離れる。台湾には自称「宅女」のブログがたくさんあるが、見てみるとアニメや漫画などの要素を含まないものも多く、時には無印良品的おしゃれ感覚さえ見受けられる。たとえばこの人は、ブログ本も出したかなり有名な「宅女」らしいが、ブログを見る限りアニメのアの字も出てこない。

それから、台湾の歌手周杰倫が07年に出した「陽光宅男」という歌がある。Youtubeにビデオクリップがあったので見てみたが、歌詞中の「ベルトにキーをつける」「財布を後ろポケットに」「黒ブチド近眼メガネ」などのくだりといい、映像中のキャラ設定といい、うーん。確かにそういうタイプのオタクもいると思うけど、単なる「引っ込み思案なダサい男子」という気もする。

「おたく」から微妙に距離を置いた「宅」。これは、日本人が外来語を消化して別物の言葉を創りだすのと同じく、日本のイメージとはもはや関係ないと見るべきか。それともまだ「日本由来の言葉」として、ある種の日本イメージが投射されているんだろうか。
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by uedadaj | 2009-11-07 11:37 | | Comments(6)
Commented by ymznjp at 2009-11-07 21:19
なんとなく私も「御宅族」と「ヲタク」の意味は違うと思っていました。
「ヲタク」として最初に印象に強く残った人と言えば、あの宮崎勤でしょうか。社会性を欠いたマニアというヲタクのイメージをよく体現している人でしたね。
もちろん、一般のヲタクはあんなに病的ではないでしょうけど。

>二人称としてこの言葉を使う人さえなかなかいないだろう。

「御宅様」という二人称は結構健在のようです。
少なくとも私の周囲の年配の女性とかの間では。
彼女たちとUedadaさんとは生活圏が違うのかもしれませんね。
Commented by baijinghy0527 at 2009-11-08 19:42
今や、二人称で相手を「おたく」と呼ぶと「ヲタク」の意味が含まれて失礼な領域まできてますねー。
「おたくの息子さんは・・・」とか言うと、なんだか自分がお高い人で気取ったような語感を含んじゃうのでは?デビ婦人みたいな(笑)

僕が学生の頃、まだ「ヲタク」という言葉が世に出ていなかった頃、すでに「ヲタク系」の先輩が、相手と話すとき目をあわさず「おたくは・・・」と話してました。すす時代を先駆けてましたです。
Commented by T.Fujimoto at 2009-11-10 00:28 x
そうなんですよね。日本語の「オタク」に由来するでしょうが、台湾で使う「宅男」は、Uedadaさんが書かれたように、「引きこもり」「出不精」の意味がかなり強く感じます。「オタク」の語源を知らず、ある意味では間違って解釈しているような気がしますね。
Commented by uedadaj at 2009-11-10 21:55
花うさぎさん、
あー。なるほど、お宅様と言えば使用イメージわきます。
私が文中で想定した使用例とは違う人々ですが。
Commented by uedadaj at 2009-11-11 22:07
白氏、
実は私自身、オタクの人が「おたくは〜」と話しかける現場に
立ち会ったことがないんす。
オタクの知り合いは少なくないんですけどね。
自分もそういうキライがなくはないしXD
Commented by uedadaj at 2009-11-11 22:08
Fujimotoさん、
日本の片仮名言葉もねえ、字面に意味が影響されているものが
結構ありますし。
望文生義、というそうですね。


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