【2535】裏原宿的「火の用心」(日本語版)

(台湾《2535雜誌》2009年5月号掲載--掲載文は繁体中文)



以前、原宿の竹下通りに、40年以上営業しているというラーメン屋があり、僕は随分そこに通った。一度そこの主人と話をして、昔の原宿の様子を聞いてみたら、ごく普通の住宅街だったそうだ。確かに裏道へ入ると、昭和期に建てられたような普通の家が今でも結構残っている。当時からの住民は、自分の住むあたりが若者や観光客の聖地になるな ど、考えもしなかったろう。そして数十年後の今、そんな変化のまっただ中にいるのが、竹下通りの東に広がる「裏原宿」だ。

小さいが個性的な服飾店が密集する裏原宿に、最近は若者だけでなく、海外からの観光客も多く訪れるらしい。十数年前までは単なる住宅地で、奥まった辺りには普通の住宅も多いが、すぐ 隣の通りには小型のファッションビルや、アパートを改装して壁にペインティングしたりオブジェを飾って目立っている店が並ぶ。

元からの住民にしてみれば、原宿や表参道ほどのの大開発こそないものの、キンキラした建物が増え、毎日見知らぬ若者や言葉の通じない人々が路地裏まで足を 踏み入れたり、住んだりするようになり、明らかに普通の住環境とは異質な場になっている。そんな変化への小さな戸惑いを象徴するようなモノを、ある住宅の脇の町内会掲示板で見つけた。

「火の用心(注意防火)」

おお、懐かしい。子供の頃、台所の柱や玄関なんかに、こう書かれた紙のお札がぺたりと貼ってあったっけ。筆文字をデフォルメした書体も当時のまま。違いと言えば素材がプラスチックになったくらいか。

...いや。よく見れば、当時と決定的な違いがある。下の赤い部分に、3つの外国語が併記してあるじゃないか。

「Beware of fire」
「불조심」
「当心火」

それにしても、上の日本語と比べてこれらの字の小ささはどうだ。道端の面白そうな物をきょろきょろ探しながらのんびり歩いていた僕も、このささやかな呼びかけはうっかり見過ごすところだった。ましてや当の外国人が目に留めるとはとても思えない。

日本人の多くは外国人を前に、妙にはにかんでしまう習性がある。外国人に接する機会の少なかった人は尚更だろう。都心に住んでいるとは言え、ちょっと前までよそ者に素通りされてきたこの地域の住民たちが、そういう習性を残していても不思議はない。そんな人々が、ここ数年の大きな変化に対応しようとしつつも今イチ踏み出しかねている印が、この極めて控えめな外国語なんだろうか。あるいは、連中にちょっと注意はしたいが見過ごしてくれた方が気が楽だ、という気持ちもあるかも知れない。

いつか、これらの標語が日本語と同じ大きさで並ぶ日が来るだろうか。いや、そんな頃には、「火の用心」なんていう「住宅地向け」の呼びかけはもはや必要なくなっているんだろうか。


(中文版はこちら
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by uedadaj | 2009-06-05 19:27 | 散歩


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